昨年7月に世界銀行グループにより作成され、国際金融公社(IFC)が発表した報告書 「ガラス産業の持続可能性強化」 は、今日のガラス市場にとって重要な指標として注目されています。TGM wayでは、欧州の業界動向をご紹介する観点から、複数回に分けて報告書の内容や関連情報を掲載いたします。ご興味があれば、是非ご確認ください。
国際金融公社(IFC)は世界銀行グループによって設立された、貧困減少と生活改善を目的に発展途上国における民間セクターに対する投資支援や技術支援などを行う国際機関であり、様々なプロジェクトに対して資金援助、戦略立案支援などを実施しています。
IFCは、世界のガラスメーカー各社が事業を更なる成長段階に進めるために生産活動を最適化し、持続可能な社会を実現するR&D活動を実施し、よりよい未来へと進むことに焦点を当てた最適なアドバイザリーサービスを提供してきました。
欧州では温室効果ガス排出量を、対90年代数値比で2030年までに30%、2040年までに40%削減し、2050年までに「ネットゼロ」にするという目標が掲げられており、これを実現するためには、上述の様な生産活動の最適化やR&D活動が必要不可欠であるとIFCは強調しています。ガラスはリサイクル可能な循環性のある素材であり、既に循環型経済実現に向けて大きく貢献し始めています。
2020年、IFCは10カ国にわたる3億米ドル(約390億円)規模の12のプロジェクトを実施し、翌年2021年には17のプロジェクトに1億米ドル(約130億円)の予算を投入しました。これらのプロジェクトにおける投資対象には、フロートガラスの製造と加工業界を始めとして、ソーラーパネル用ガラス、複層ガラス、関連製品、容器、医薬品梱包材、繊維ガラスなどが含まれていました。
また、ガラス業界と密接な関係を持つIFCは、今回の報告書の中で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるガラス業界への影響額の試算結果についても言及しています。

参考指標1のグラフはドイツにおけるガラス業界各分野の2019年上半期、及び2020年上半期の売上を比較しています。あくまで一つの参考指標となりますが、情報を纏めると下記の様になります。

新型コロナウイルス感染症はガラス業界にとってごく短時間に需要を大きく減少させましたが、一方で予期せぬ成長を遂げた分野も生むなど、多様な影響をもたらしました。
2020年前半では、板ガラス、容器用ガラス、食器用ガラスなどの領域において短期的に需要が減少しました。多くの国が初めてのロックダウンを迎え、戒厳令に近い状況となるなか、消費が集中的に抑制された影響はやはりガラス業界にとっても大きなものとなり、多くのガラス関連メーカーが、売上の低下、受注案件のキャンセルや延期、生産ラインの閉鎖、事業価値の減少など事業への悪影響を経験し、中には人員削減を余儀なくされる企業も現れました。
不良債権も増え、支払い能力に問題を抱えた企業も少なくはありませんでした。そうした環境下なので、当然設備投資も滞り、負の影響は多方に拡散していきました。しかし、データから読み取れる様に、コロナ渦でも売上を伸ばした領域があったのも事実でした。
ドイツの業界団体であるBV Glasのデータによると、2020年上半期のドイツにおけるガラス業界全体の売上額は、2019年同時期の49億ユーロ(約6,860億円)から4.1%下げた47億ユーロ(約6,580億円)となりました。内訳を見ると、ドイツ国内向けの売上は5.7%、ドイツ国外向け売上は1.8%減少したと試算されています。板ガラス業界では特に自動車用ガラス、また容器用ガラス業界においては、食器用ガラスの需要減少の影響が大きなものとなりました。
ただ、グラフからも読み取れる様に、新型コロナウイルス感染症により予期せぬ需要の恩恵を受けた分野も存在しました。例えば、ロックダウン政策による巣ごもり需要を受け、食品や飲料用のガラス容器の需要は回復しました。(容器用ガラス分野では9割程度が食品・飲料用とされています。)
また医療用途の特殊ガラスも需要が増加し、さらに新型コロナウイルス感染症以降継続しているワクチン接種により、ワクチン用の特殊ガラス容器もコロナ前は予期せぬほどの需要増となったとされています。欧州でも各国状況は異なるため、あくまでドイツの参考情報にはなりますが、欧州のトレンドを探る一つの指標とされています。
今回はこれで終了となります。次回の掲載では、このような新型コロナウイルス感染症流行の中で、昨今の欧州の持続可能な社会に向けた取り組みやその実情に関する報告書の内容を紹介させて頂く予定です。
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※情報出展元:03_04_Glass Technology International_2022_March-April
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