
欧州の板ガラス業界では、今まさに大きな技術革新の転換期を迎えています。政策面では「持続可能性」が中心的なテーマとなっていますが、短期的な競争力の源泉は、よりスマートな設備、高度な自動化、構内物流の統合、そして加工ライン全体における品質に対する新たな価値観と取り組み方(品質パラダイム)の確立にあります。
業界団体や専門メディアは、連続性をもった工場(Connected Factory)、段取り替えの高速化、そしてファサード性能や施工性に対応した高度な複層ガラス(IGU)製造への移行が進んでいると報じています。
▶建築家、建築会社、ファサード施工会社、および一般顧客が新しい複層ガラス(IGU)に求めているものとは
欧州では、複層ガラス(IGU)は長年にわたり標準となっています。かつては「シンプルな」複層ガラスで十分であり、多くの用途では性能が求められることはありませんでした。現在では、比較的簡単な用途であっても、高性能な複層ガラスが求められるようになっています。ユーザーも複層ガラスの仕様に精通し、自分が必要とする性能を理解しています。以前は新しい窓には「二重ガラス」が入っていれば十分とされていましたが、今ではそれだけでは不十分です。
▶欧州における現在の顧客向け複層ガラス需要は以下の点に集約 されています:
1. 大型化、薄型化、軽量化、高性能化
◆ジャンボサイズや特大サイズの複層ガラス、および高性能複層ガラスの需要は年々増加しています。
最も求められている製品は、中央部に薄板ガラスを用いたトリプル複層ガラス、複層ガラス用真空ガラスおよび特大サイズガラスです。

2. ウォームエッジが市場をリード
◆熱可塑性樹脂スペーサー、フレキシブルスペーサーおよび全てのウォームエッジプロファイルが市場を形成し、アルミニウムは姿を消しつつあります。熱可塑性樹脂スペーサーとフレキシブルスペーサーシステムは、多くのサプライヤーが柔軟性、耐熱性、そして自動化への対応性を差別化要因として位置付けており、市場における注目度と議論の的となっています。


3. 高い光学品質と異方性/ローラーウェーブの低減
◆強化ガラスの最適化と品質保証/視覚評価の課題は、建築家が目立つファサードにますます要求する表面および光学的基準を重視することです。

4. 多機能複層ガラス
◆遮音性能、防犯性能、防火性能など、複数の性能を層構成で組み合わせた「多機能複層ガラス」への需要が高まっています。これは、安全性や性能に関する複数の機能要件を1つの複層ガラスに集約して実現しようとする設計者の意図を反映した動きです。
5. バードフレンドリー・パターン(鳥類の衝突に配慮したデザイン)と採光制御
◆大規模プロジェクトのほとんどにおいて建築家は、鳥類衝突防止に適合したガラスや採光性能を高めたガラスを積極的に求めています。こうした要件は、複層ガラスの設計や製造にも影響を与える重要な設計要素となっています。

(ドット、ストライプ、グリッド)をサンドブラスト鳥の衝突を防止
6. 高性能・高価格な複層ガラスにおけるトレーサビリティの重要性
◆これまで、複層ガラスの製造履歴(トレーサビリティ)は顧客にとってそれほど重要ではありませんでした。
しかし現在では、より高度で高価格な複層ガラスが増えていることから、市場や顧客の間では、製品の製造履歴を確認できる仕組みが求められるようになっています。
保証対応のためだけでなく、高性能な窓を購入したと友人に示すためでも、スマートフォンでコードをスキャンして複層ガラスの特性と履歴を確認できることを高く評価しています。
▶総括および筆者の個人的見解
過去数十年にわたり、自動化は板ガラス業界を大きく変えて来ました。高速生産ラインは当初、製造会社が生産量を増加させることを可能にいたしました。今日では、高度な自動化システムは、製造工場が品質の一貫性を向上させ、作業を最適化し、安全性を向上させ、より高性能な製品を提供することを支援しています。

◆自動化は今やほとんどの製造工場で標準となり、業界全体のパフォーマンスを向上させる潮流となっています。
しかし、近年の機械設備イノベーションは鈍化しており、次の進歩の波はソフトウェアからもたらされると考えられます。
◆人工知能(AI)と相互接続されたソフトウェアは、すでに製造現場における自動化、予防保全、品質管理、サプライチェーンの最適化といった分野で改善をもたらしています。
AIの統合は、効率化にとどまらず真のスマート製造を実現するための新たな工場改革(プラント トランスフォーメーション)の段階へと進む可能性があります。

一方、機械設備の分野では、ペースや用途こそ異なるものの、顕著な進展が引き続き見られ、特に縦型生産ラインや複層ガラス製造設備への関心が高まっております。
将来を視野に入れる企業は、これらの進化する技術動向に常にアンテナを張り、自社の事業基盤をどのように強化できるかを検討していくことが重要です。
▶新たな自動化への準備
新しい設備を導入する際に常に重要となるのが、事前準備です。据付開始まで数ヶ月かかる場合でも、計画はずっと前から始めるべきです。

統合を成功させるには、適切なトレーニングが必要です。オペレーターは、特に高度な機能やソフトウェアで稼働する新システムを効果的に管理する方法を習得し、最大限の性能を確保しなければなりません。保守チームもまた、最新設備に適応し、より高度な技術スキルとデジタルシステムへの深い理解が求められます。設備の高度なソフトウェアは役立つものの、人的スキルは依然として不可欠です。

また、新しい設備/ラインへの投資は、お客様が設備のワークフローと工場レイアウトを見直す機会にもなります。
タッチポイント(物理的に接触するすべての接点)の削減、労働力の最適化、材料のフローの改善は、いずれも効率性と安全性を高めることができます。生産能力が拡大する場合には、資材の発注と調達を新しい生産能力に合わせるためにサプライヤーとの緊密な連携が不可欠となります。外部からのサポートや在庫からの独立性を高めることで、企業は世界中で経験している絶え間ない変化に対して、より強靭な対応力を持つことができます。

最後に、既存の設備を軽視しないことが重要だと考えています。新しいシステムが導入されても、定期的な予防保全によって既存の設備を維持することは、安定した生産と製品品質を維持するために不可欠です。

つまり、自動化はガラス業界を驚異的な成熟レベルへと導いていることは事実です。次の領域は、より高速な設備によって規定されるのではなく、よりスマートな設備とそれを最大限に活用する準備ができている人々によって定義されるでしょう。
▶Resources and credits(資料元と著作権情報)
The National Glass Association (https://www.glass.org/)
www.glassmagazine.com
La Rivista Del Vetro (https://www.letsglass.it/)
https://glassforeurope.com/
https://www.glassquality.com/
本記事に関する問い合わせ先
株式会社TGM 営業部 設備グループ
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