【海外情報】MG サービス社 Milo Gramondo 氏 の 欧州 ガラス業界 の 動向:工場現場で起きている変化・欧州板ガラス業界の技術トレンド (前編)

欧州の板ガラス業界では、今まさに大きな技術革新の転換期を迎えています。政策面では「持続可能性」が中心的なテーマとなっていますが、短期的な競争力の源泉は、よりスマートな設備、高度な自動化、構内物流の統合、そして加工ライン全体における品質に対する新たな価値観と取り組み方(品質パラダイム)の確立にあります。
業界団体や専門メディアは、連続性をもった工場(Connected Factory)、段取り替えの高速化、そしてファサード性能や施工性に対応した高度な複層ガラス(IGU)製造への移行が進んでいると報じています。

▶ガラス市場の需要
設備に関して顧客が求めている主なトレンドは、自動化、安全性の向上、そして標準化されたオペレーションによって、新しい機能を迅速に吸収することです。 市場の需要は変動が激しくなっており、柔軟な生産体制がピーク時の対応力を高める手段として重要視されています。

▶自動化、検査、優れたデバイス
自動化は長年のトレンドとなっており、特に欧州の製造業では人手不足の影響から、現在も非常に現実的なものとなっています。自動化された設備を導入することで、企業は人員を削減することが可能になりますが、実際に生産を運用する担当者には、これまでとは異なるレベルの準備と、より高度な技術スキルが求められます。これは企業にとって、より少ない人員で高い生産性を維持するために不可欠な要件となっています。

検査、予測、予防は、会議や業界の専門家の間で頻繁に耳にする3つのキーワードです。顧客は工程管理の高度化、検査、予防保全、生産統合システムへの強い関心を示しています。現時点では、ほとんどがまだ「形式的な取り組み」に留まり実用化には至っていないませんが、水面下ではいくつかの改善が着実に進んでおり、今後、より高品質なガラスの製造を可能にし、設備を良好な状態に保つツールやデバイスが市場にますます増えていくことが期待されます。

設備はますます複雑化、スマート化しているため、それに伴って高度な知識が求められるようになっています。この点において、技術の進歩は予防保守やトラブルシューティングの支援に役立ち、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。顧客は、設備の据付、操業、保守を担う人材がいなければ、投資が無駄になるという認識を深めています。そのため、現代の工場では、オペレーターや保守チームのトレーニングとスキル向上が最優先事項となっています。

品質に関する取り組みは、顧客が自社設備に導入している改善の中でも、依然として最も重視されている分野であり、新設ラインにおいては欠かせない要素となっています。強力な「検査エコシステム」を構築することで、膨大な時間とコストの無駄を防ぐだけでなく、再製造によって発生する廃棄物を減らし、環境保全にも貢献します。

▶工場現場で起きている変化:注目すべき7つの技術トレンド
1. 工場の生産現場を新たな視点で見直す
製造現場では、切断、研磨、強化(熱処理)、コーティング処理、合わせ、複層ガラスユニットの組立といった各工程を統合された制御システムのもとで一元管理する動きが進んでいます。この取り組みの目的は、SKUの多様化が進む中で、手作業による介入を減らし、歩留まりを安定させることです。ガラスへのタッチポイント(物理的に接触するすべての接点)が少なくなることで、必要な人員の削減、安全性の向上、そして作業環境の改善にもつながります。

SKU(Stock Keeping Unit):製造業や流通業では、SKUの数が増える(=SKUが多様化する)
と管理や生産の複雑さが増すため、効率化や自動化が重要になります。

工場の近代化には、新しい設備を導入するだけでは不十分です。工場のワークフローと手順を見直す必要があります。
欧州の主要な製造現場では、従来の「孤立した自動化=個別に稼働する設備」から設備同士が連携し、人の介入を最小限に抑えた統合型ソリューションへと移行する動きが進んでおり、MES(製造実行システム)やERP(基幹業務システム)などの管理システムによって設備全体を統合的に制御することでこの変革が実現されています。

なぜ重要なのでしょうか:統合されたソリューションや設備の相互接続、トレーサビリティの確保によって、後工程での廃棄を防ぎ、リアルタイムでの修正が可能になる点にあります。
これは、安定した品質の製品供給、CO₂排出量の削減による環境負荷の軽減、そして収益性の向上を目指す業界の流れと一致しています。

2. 構内物流の自動化と傷つけない丁寧な取り扱い
スマートストレージ、自動積み込み/積み下ろしソリューション、ロボット/ポータルハンドラー、AGV(Automated Guided Vehicle/無人搬送車)や LGV(Laser Guided Vehicle/レーザー誘導搬送車)の幅広い活用でガラスの各工程間の移動が人の手を介さずに行えるようになり、破損リスクや作業者の健康負荷を大幅に軽減しています。

LGV(Laser Guided Vehicle/レーザー誘導搬送車)

◆主要なガラス設備メーカーは、展示会や各種メディアで、素板ガラスや最終製品のソーティング、バッファーシステム、自動ラックシステム、保管システムなど、ハンドリングの改善に関する新機能を積極的に発表しています。
AGVやLGVは、大手ガラスメーカー拠点での導入が進んでいるものの、依然としていくつかの制約があり、標準化された生産体制を持つ企業にのみ適しているのが現状です。

FOREL社製 最終製品のソーティング、バッファーシステム

◆なぜ重要なのでしょうか:構内物流(イントラロジスティクス)は、多品種少量生産において処理能力の制約や品質リスクの要因となっていることが挙げられます。
最新の製造ラインは、ガラスの流れを同期させ、製品の破損を防ぎながら、生産の安定性を高めるよう設計されています。

3. 検査システム
高解像度カメラ、性能向上したセンサー、よりスマートなソフトウェア、熱/赤外線センサー、そして機械学習の技術は、フロートガラスの検査工程から加工検査工程全体へと広がりつつあります。
これらのシステムは、異物混入、気泡、ローラーウェーブ、異方性パターン、エッジチップ(かけ)、スペーサーやシーラントの異常などを自動的に検出します。

SOFTSOLUTION社製 品質検査システム(平型タイプ、縦型タイプ)

 

LITESENTRY社製 品質検査システム(強化ガラス 歪み、異方性検査)

 

DELTAMAX社製 品質検査システム

◆欠点回避システムと工程最適化は、現代のガラス工場が市場で効果的に競合するための中心的な機能でなければなりません。

◆なぜ重要なのでしょうか: 特に大規模プロジェクトを手がける顧客は、厳しい規制によって適用されるより厳格な受け入れ基準を適用しています。インライン検査は、ファサードなどの複雑な作業において、一つの不具合ガラスが建設全体の遅延につながるような手戻りを削減します。

TECGLASS社製 デジタルプリンターで印刷されたファサード

4. ソフトウェアおよびスマートな装置
生産計画は、炉の処理能力、複層ガラス(IG)の制約、硬化時間、工程順序、トラックへの積載順などを考慮した「制約対応型スケジューリング」へと進化しています。
各ラインや工場全体(ERP)を対象としたソフトウェアツールは、工程改善や生産フローの最適化を支援し、生産需要への柔軟な対応を可能にします。
この分野の応用はまだ発展途上ですが、AIの普及、より手頃な価格の機器、よりスマートなコンポーネントの登場により、業界にとって大きな前進となる可能性があります。

OPTIMA社製 生産統合システム

◆このようなソフトウェアツールの導入は拡大しており、段階的によりスマートな装置への移行が進み、製造会社の日常業務を支援します。これらのツールは、無駄を削減し、フローを最適化し、パフォーマンスを向上させ、ダウンタイムを短縮する方法を顧客に積極的に提案します。例えば、センサーとデータを用いてメンテナンスを提案する予防保全や高度なトラブルシューティングツールによって保守チームが機器の問題を迅速に解決できるように支援するなどです。

◆なぜ重要なのでしょうか:顧客は変動しやすいプロジェクトスケジュールや限られた施工期間に直面しており、工場内のすべての工程を調整しながら対応するのは容易ではありません。
この点において、デジタルツールの進化は、納期遵守、段取り替えによるロスの削減、機械のダウンタイムの削減に大きく貢献します。

5. 装置に共通する特長は、縦型とフレキシブル
◆設備や生産ラインにおいては、縦型が主流となり、柔軟性が高まっていることが確認されています。スペースの問題は、特に北米のような広大な工場面積を持つことが一般的ではない欧州市場では、非常に一般的です。
そのため、また、在庫と完成品は縦型に取り扱い、出荷する必要があるため、素板ガラスと完成品の仕分けシステムが大幅に拡大しています。

SKILL GLASS社製 縦型CNC マシニングセンター

◆現在では、複数の工程や用途に対応できる柔軟性と縦型構成を備えた設備やラインの導入が、ほぼ必須となっています。製造されるガラスの種類や工程は多様化しており、限られた設置スペースの中でこれらの機能を実現する必要があります。
例えば、コンパクトな設置面積で、穴あけ、ミリング、皿穴加工など、様々な加工を可能にする縦型加工機が挙げられます。
また、フレキシブルスペーサーとリジッドスペーサーの両方に対応できる複層ガラス(IG)ラインも挙げられます。
これは、上流工程と下流工程のソーティングシステムとの連携が望まれます。

◆なぜ重要なのか:ファサードの形状や建築家、施工会社の要求、そして一般的にガラス製品全般において、より複雑な形状やサイズのニーズがますます高まっており、繊細で高価なコーティングの使用も広がっています。
限られた設置スペースの中で複数の工程に対応できる設備が求められるのは明らかです。
また、縦型での生産は、搬送も縦方向で行われるため、製品の取り扱い回数を減らし、作業の負担を軽減することにも貢献します。
縦型設備の導入により、最終製品の損傷リスクを低減する効果もあります。

6. 高付加価値ガラス製品で利益率アップ
◆厳しい市場環境において、すべてのガラス加工会社は事業の継続と収益性の向上の方法を見つけなければなりません。業界の小規模企業から大手企業まで、利益を向上させるために、より付加価値の高いガラス製品の顧客への提供に力を入れています。
欧州市場では、こうした高度でより良い、あるいは先進的で高品質な、あるいは独特な製品への需要が高く、好意的に受け入れられているため、加工会社はそれに対応する設備への投資を増やしています。

TECGLASS社製デジタルプリンターによって印刷された内装ガラス

◆ガラス製品に付加価値を創出するための投資対象として最も一般的な加工技術は、デジタルガラス印刷、サンドブラスト加工、合わせガラス加工、特殊コーティングなどです。かつては主に家具や アートガラスを専門とするガラス職人の領域でしたが、現在では建築業界でも広く普及しています。遮音性能、防犯性、印刷、装飾ガラスや鳥に優しい模様のためのサンドブラス加工など、様々な用途に合わせた中間膜が広く採用されています。その用途は無数にあります。

◆なぜ重要なのでしょうか:競合する市場に関係なく、ガラス製品には美しさと性能の融合がますます求められているからです。

TECGLASS社製デジタルプリンター

 

FRATELLI PEZZA社製 サンドブラスト

7. 環境に優しい取り組みを推進
◆環境問題は広く認識されており、残念ながら、私たちはほぼ毎日、世界中で望ましくない気候変動を経験しています。ガラス業界も環境保全の要請に応える形で、より環境に配慮した工場づくりや、二酸化炭素排出量の削減に向けた技術投資が進められています。欧州各国の政府も、資金支援や(時に厳しすぎるほどの)規制強化によって推進しています。

◆製造会社は、現在の市場が「環境配慮型の企業」を評価する傾向にあることを認識しており、運用コストの削減というメリットも得られるため、まさに双方にとって有益な取り組みとなっています。こうした方向へ進むには初期投資が必要であることは否めませんが、投資を比較的短期間で回収できる複数の利点があり、間違いなく過去よりも迅速に回収できます。
水やエネルギーの消費量の節約、機械のメンテナンスの削減、ガラスの廃棄量の削減など、これらはすべて小さなステップですが、相乗効果で大きなROI(投資回収率)を迅速に実現します。

FILTRAGLASS社製 水リサイクル処理システム

◆なぜ重要なのか:より良い生活環境を実現するために必要不可欠な環境保全とすでに述べた利点とは別に環境に優しい工場で「グリーン材料」を使用して生産された「グリーン製品」を必要とする顧客に製品を販売することが、時には重要になることがあります。

FENZI社製 資材EPD「Environmental Product Declaration/製品環境宣言」を取得




本記事に関する問い合わせ先
株式会社TGM 営業部 設備グループ
TEL: 03-6261-1260 MAIL: general@tgm-japan.com




			

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