【海外情報】コレクティブ インテリジェンス(集団的知性):学術界と産業界をつなぐ架け橋(前編)

コレクティブ インテリジェンス(Collective Intelligence:集団的知性)とは、複数の個人の知識や意見を集約し、それらを組み合わせることで、個々の能力を超えた知的なアウトプットを生み出す現象のことで、単に情報を集めるだけでなく、集団として新たな知識やアイデアを創出することを指します。

業界の未来に対する学術界のアプローチを知るべく、GTI(Glass Technology International誌)のNickFouchéシニア編集者は、ヴェネツィアのIuav建築大の准教授であるMARIA ANTONIA BARUCCO氏に、今日のガラスの持続可能性、柔軟性、そして革新性の活用についてインタビューし、ヴェネツィアのCa’Foscari大の学生部副学長であるELTI CATTARUZZA氏と共に、今日のリサイクルが果たす変革的な役割について言及されました。

Glass Technology International(GTI) : BARUCCO教授、ガラスが私たちの未来にとって欠かせない素材であり続けるのは、どんな理由があるのでしょうか?

ヴェネツィアのIuav建築大の准教授である
MARIA ANTONIA BARUCCO氏

MARIA ANTONIA BARUCCO氏: 第一に、環境の持続可能性は間違いなくあげられます。ガラスは理論的には100%リサイクル可能であり、品質の低下なしに再利用が可能な素材です。
これほど潜在的な可能性を秘めた素材はごくわずかです。サプライチェーン全体での完全な循環型経済は未だ現実のものとなっていませんが、数多くの研究、パイロットプロジェクト、優れた事例が、ますます幅広い用途への関心が高まっていることを示しています。私は約10年間取り組んできたガラスサプライチェーンの研究を通じて、この傾向を目の当たりにしています。つまり、循環性は、今後数年間で大きな進歩が期待される分野の一つです。ガラスが使用される業界を問わず、製造プロセス全体において、この方向で大きく発展するでしょう。

ガラスの適応性と汎用性についても考慮する必要があります。ガラスは、建築分野(窓、ファサード、断熱材)から包装分野(食品・飲料用容器)、技術分野(電子機器のスクリーン、光ファイバー)、さらには芸術やデザインなど、さまざまな分野で使用されています。こうした多様な用途への適応力と、新たな技術との融合により、ガラスは多くの革新的な活用において欠かせない存在となっています。

ガラスには、透明性や耐熱性といった独自の特性があります。しかし、現在当たり前のように享受しているこれらの特性は、数千年にわたる実験、試行錯誤、そして職人技の賜物であるということを、改めて認識することが重要です。
今日、私たちは、さらなる進歩を可能にするツール、スキル、目的 (このインタビューの冒頭に挙げた持続可能性の問題など) を備えて、この研究の道を進み続けなければなりません。ガラス分野におけるイノベーションは決して止まることはありません。この継続的な進化の流れの中で、私たちは、おそらく合成ポリマーをベースとした素材を新しいシリカベースまたはリサイクルされたガラス素材に置き換えるといった、革新的な将来の開発を思い描くことができるのです。

近い将来、超耐候性ガラスや、透明性や断熱性を環境センサーによって制御できる「スマートガラス」の応用が広がっていくと私は確信しています。ガラスはすでに、建築物のエネルギー効率を高める用途において重要な役割を果たしており、今後もその役割は継続していくでしょう。特に既存の建築物のエネルギー性能を向上させる取り組みにおいては、今後大きな課題と可能性が広がっています。

いずれにしても、ガラス業界は、伝統とイノベーションが共存し、相互に高め合い、今日の社会的ニーズだけでなく、将来のニーズにも対応するソリューションにつながる好例であることを理解することが重要です。

Glass Technology International(GTI) :学術研究と産業イノベーションの相乗効果によって、ガラス業界ける新たなソリューションの開発をどのように促進できるでしょうか?

MARIA ANTONIA BARUCCO氏:ガラス分野におけるイノベーションには、学術界と産業界の連携が不可欠です。この相乗効果は、共通のビジョンと一致した目標に基づいて生まれるものであり、ガラス分野における急速で未来志向の技術発展に対応できるよう、研究と教育を推進するための共同のコミットメントが必要です。

この複雑で不確実な時代において、産業界も学術界も、次世代とのつながりを強化しなければ、今後の課題に立ち向かうことはできないことを肝に銘じておくことが重要です。私たちがここで言及しているのは、ガラスの将来の消費者や利用者を指すのではありません。今日の学生が育む、研究、産業、そしてデザインにおける未来の才能にしっかりと焦点を当てなければなりません。
専門分野や世代をつなぐことは、現在の限界を理解し、進歩に向けた共通の目標を設定するうえで重要な鍵となります。
教室では、学生たちの強い目的意識、決意、そして献身的な姿勢を持って学んでいる様子が見られます。特に、環境・経済・社会の持続可能性に対する関心は強く、これらの価値観こそが新しい世代を特徴づけています。
学術界と産業界の間で、共通の価値観に根ざした目標を構築するためには、まだ多くの課題が残されています。しかし、それは不可能な課題ではありません。まさに、欧州グリーンディールが私たちに教えてくれたことなのです。

同様に重要なのは、地域社会と、その地域から集まる若い学生や研究者とのつながりを強化することです。
イタリアのガラス業界は、「Made in Italy」ブランドの中核を成す分野であり、多くの労働者を雇用していますが、その可能性は将来のデザイナーたちに十分に知られていないのが現状です。
ガラス分野で学びたい、あるいは働きたいと考える人々の多くが、しばしば海外に目を向けます。 
同時に、ガラスに関する教育と研究において、ヴェネツィアとの協力に関心を持つ国際機関も増えています。

ガラスは、その歴史、革新性、職人技の伝統、そして表現力と技術的な可能性が拡大し続ける素材であり、才能豊かな人にとって非常に魅力的な分野となるあらゆる可能性を秘めています。私は、学術界と産業界がこうしたニーズに対して具体的な対応を早急に示すことに尽力します。

このような相乗的な成長を可能にするには、国際的な政策と戦略が必要となります。しかし、今日の最先端のガラス業界が、技術者、アーティスト、職人、科学者、そして何よりも情熱的なデザイナーに幅広い機会を提供していることを認識し、再評価することも同様に重要です。
これらの人材がいなければ、ガラス分野における新たなイノベーションやソリューションの創出は不可能でしょう。

欧州グリーンディール(European Green Deal):欧州連合(EU)が2019年に策定した包括的な成長戦略であり、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「気候中立」の達成を目指しています。

Glass Technology International(GTI) :カレットを廃棄物からガラス製造の貴重な資源へと変換するにはどうすればよろしいでしょうか?

MARIA ANTONIA BARUCCO氏:ガラスは、古代からリサイクルする方法が知られていた素材です。ヴェネツィアのガラス製造の歴史を研究すると、ガラス廃棄物が様々な方法で再利用されていたことが明らかになり、高級品の製造にも利用されていました。これは、製造工程が比較的シンプルで、何より重要なのは、限られた数の熟練のガラス職人によって管理されていたためです。 ただし、原材料の供給に関しては、特に貿易ルートや対外関係によって時代とともに変化するなど、複雑な問題もありました。

今日、ガラスが無限にリサイクル可能で、化学的に不活性な素材であることが広く知られています。しかし、この特性ゆえに、ガラスが革新的なサプライチェーン(例えば、ヴェネツィア大学のスピンオフであるrehub社が開発したモデルなど)を生み出す可能性を軽視される原因となり、継続的かつ漸進的なイノベーションの重要性が軽視されがちです。
これらのイノベーションは、特に板ガラスの場合、回収およびリサイクルプロセスの効率を向上させるために不可欠です。

一方、エネルギー節約の必要性は、ガラスカレットのリサイクルを強力に推進する動機付けとなっています。溶融プロセスにおいて、カレットは新規原料の使用量を減らし、必要なエネルギーを低減します(カレットはより低い温度で溶融するため)。
新たな研究開発の道筋を確立し、これらの取り組みに人材を投入するためには、科学的データが不可欠であることを改めて強調しておきます。しかし、ガラス廃棄物をデザインや芸術に応用することも同様に刺激的です。こうした応用は、重要な価値に焦点を当て、創造的な思考を促し、ガラスが私たちの文化に深く根付いているかを改めて認識させてくれます。

現在、非常に効率的なhollow glass(ボトルなどの中空ガラス)リサイクルチェーンに加え、カレットを複層ガラスに転換する企業が増加しています。このイノベーションは廃棄物を有効活用しつつ、建設業界のエネルギー効率向上に大きく貢献しています。さらに、研究ではカレットを新たな複合材料やハイブリッド材料に統合する方法を積極的に探求しており、建設から自動車業界まで多様な分野で応用可能な、強度や断熱性能の向上といった優れた特性を備えた材料の開発が進んでいます。

イノベーションが期待できる分野は数多く存在し、特にリサイクル分野におけるその必要性は顕著です。だからこそ、広範な教育と意識向上が不可欠です。特に、今日のガラスサプライチェーンは、私がかつて説明した歴史的なヴェネツィアガラス製造の時代よりもはるかに広範かつ複雑になっていることを考えると、なおさらです。

消費前と使用後のガラスカレットの再生利用における真のイノベーションは、これらのサプライチェーンを正確かつ包括的に理解することでのみ実現可能です。 ガラスカレットの再生利用におけるイノベーションとは、これまで孤立し独立していたチェーンを繋ぐことを意味します。複雑かつ多面的なガラス加工およびリサイクル分野は、統合されたシステムとして捉える必要があります。

新しいテクノロジーは、生産のダイナミクスに関する理解を深め、研究開発プロセスをより効率的にし、持続可能な価値観との整合性を高めるデジタルソリューションを開発する上で重要な役割を果たし、それによって現在の課題に対処し、克服することを可能にします。


※本記事は、Glassonlineに特別な許諾を得て掲載しています。
※情報出展元:Glass Technology International_2025_May-June Page 94-99 に掲載





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