
先日、ヘルシンキで開催された最新の高層建物のガラス設計と建設の革新的な技術や発想で新たな価値を生み出し、社会に大きな変化をもたらす取り組みに関するセミナー「The High-Rise Northern Exposure」(主催:Jorma Vitkala氏)で、AEC Businessのコンストラクション・イノベーション・エージェント、Aarni Heiskanen氏が、SOMニューヨークのプリンシパル、Christoph Timm氏の基調講演「How SOM is decarbonizing the built environment – A holistic approach to decarbonization(SOMはいかにして建築環境を脱炭素化するか)」に続いてインタビューを行いました。
AARNI HEISKANEN氏(以下AH): 今日は素晴らしいプレゼンテーションをしていただき、ありがとうございました。
この10年でいろいろなことが変わったとおっしゃっていました。主な変化は何でしょうか?
Christoph Timm氏(以下、CT): 主な変化は具体化された炭素排出に焦点が当てられたことだと思います。これまで私たちは、建設業界が大気中に排出している炭素に焦点を当ててきました。現在、炭素排出量に対する意識が高まっていることがこの10年の大きな変化だと思います。10年前、私たちはそれを建築物の建設時や建築物を構成する建材・資材等の生産・廃棄時に発生するエネルギー消費量と認識していました。しかし、その意識は大きく変わりました。
AH: 御社は多分野に渡る企業であり、社内に多くの専門家がいます。しかし、設計に携わる私たちは、建設において現在直面している課題対応のために十分な情報を持っていると思いますか?また、私たちはこれらの新しいことをどこから学べばいいのでしょうか?
CT:とてもいい質問ですね。私たちは皆、お互いに学ばなければならないと思います。世の中には炭素に関するたくさんの情報、データベースがあります。メーカーは、必要な情報の入手を積極的に支援するようになっています。しかし、特定の製品情報を取得できる汎用データベースを必ずしも信頼する必要はありません。 たとえば、ガラスについては、一般的なデータを使用する必要はありません。代わりに、たとえば建物で使用する予定の特定のガラス情報を入手し、製造会社やガラス加工会社から具体的な二酸化炭素排出量の情報を入手できます。つまり、これらは私たち全員が利用できるサービスなのです。 しかし、誰もがこのことを知っていて、これらのサービスを利用しているわけではありません。
情報の提供やデータの共有に力を入れている組織もあります。つまり、たくさんの資料が出回っています。しかし、正直なところ、それは大変な作業であり、炭素の排出量について学び、感覚をつかむには時間がかかります。小規模な建築事務所には、それを学ぶためのリソースがないことも多いでしょう。私は幸いなことに、炭素について学び、その知識を共有してくれる専門家を何人か抱えています。
AH:この業界には小規模な会社や設計事務所、スタジオがたくさんありますから、同じようにはいかない部分もあるではないでしょうか。こうした小規模な設計会社と大規模な設計会社との間には、知識のギャップがあるのでしょうか?
CT:しばらくの間はギャップが存在すると思います。しかし、業界は十分に知恵を絞ってわかりやすい資料を提供するようになることで、このギャップは時間の経過とともに縮まっていくと思います。
AH:施工会社との連携、メーカーとの連携についても触れられていましたね。 多くの場合、施工会社は非常に保守的です。
彼らにプロセスや行動を刷新するにはどのようにすればよいとお考えでしょうか?
CT:まず、私は施工会社を信頼しています。 私は個人的に建築するのではなく、ただ計画するだけです。 彼らは自分の仕事に対して、私とははるかに異なるレベルで責任を負うことがよくあります。 それを最初に申し上げたいと思います。 次に、私たちは彼らを育まなければなりません。通常、私たちの学術的な考え方、いくつかの試験、私たちが成功させてきた以前のプロジェクトでの経験について共有し、目の前のタスクに対して私たちが何を考えているかを彼らに説明します。施工会社が恐れを抱かず、特定のシステムを設計したときにどのような計画、考えがあったのかを確認するのは、建築家の役割、またはファサードコンサルタントの役割です。 そうすればリスクへの恐怖も減り、施工会社からより良い高い理解と協力を得られると思います。
AH:建設業界の生産性は、少なくともここ10年間は良い方向に向かっていないことは周知の事実です。その解決策のひとつは、より工業化された建設、よりプレハブ化された建設かもしれません。あなたのプロジェクトでは、プレハブ化やこのような生産は増えていますか?
CT:私たちは、より多くの製品、あるいはより多くの加工製品を現場に運び、現場での作業や労力を減らそうとしています。そうすることで、より良い価値を提供することができますし、通常より高い精度が得られます。現場でのスケジュールも早くなります。すべてのプロジェクトがこのアプローチに適しているわけではありませんが、私たちはそれを認識しています。常に研究しているコンセプトのひとつです。また、よりコスト効率がよく、より高品質で、現場での無駄が少ない建物を目指しています。Billie Jean King Main Library(ビリー・ジーン・キング・メイン・ライブラリー)についての講演の際にもお話ししましたが、木材のほとんどは工場であらかじめ加工されたものです。梁を差し込むための現場施工はなく、すべて工場で下準備されたものです。私たちはどのプロジェクトでもこの工法を採用しています。
また、あるタイプのコンクリート、つまり硬化に時間がかかる低炭素コンクリートを使い始めていますが、このタイプのコンクリートは現場で硬化させることはできません。従い、工場で硬化してから、モジュールとして現場に搬入しなければなりません。

AH:私たちは、木造建築や Cross-Laminated Timber などについてもよく話しています。今後、高層建築における木材の利用をどのように考えていますか? 誰かが、構造物が巨大になりすぎて実用的でないと言っていました。そのような話の中で高層建築における木材の将来についてどう思いますか?
CT:確かに、木材は高層建築の一翼を担うでしょう。 問題は、その範囲がどの程度なのかというところにあると思います。 柱までなのか、それとも床板のみなのか。完全な木造建築になるのか、それともハイブリッド・ソリューションだけになるのか。それが真の問題点です。私は、木材はその用途を見つけることができると思います。なぜなら、建築家として、木造の骨組みや木造の天井を見るのが嫌な人はいないでしょう。それは木材がとても美しい素材だからだと思います。
AH:残念なことに、私たちは木材に対して防火対策を施さなければなりません。
CT:確かに、この部分についても情報を公にして議論する必要があります。
AH:仕事やプロジェクトで多くのデジタル技術を使われていると思います。今、私たちはAIやマシンラーニングの台頭を目の当たりにしています。デザイナーとしてどう思いますか?脅威ですか、それともチャンスですか?
CT:それは絶好のチャンスです。私たちの職場には、特にAIを研究しているグループがあり、会議の議案を作成するような単純なものから、あらゆる種類のタスクのツールとしてAIを使っています。しかし、今のところ、これはすべて極めて実験的なものです。
AH:現在の高層ビルの設計・建設プロセスで、何か変えたいと思うことはありますか?
CT: 一般的なコメントとして、私は隠蔽を減らしたいと思っています。 なぜなら、私たちが取り組んでいるほとんどの建物の現状を見ると、多層的で追加的なアプローチが存在するからです。
たとえば、鋼製の上部構造があり、それを被覆し、その前に乾式壁(石膏ボードなど)や柱被覆(防火対策など)を置きます。 これらはすべて、実際には必要のない構成要素ですが、二酸化炭素排出量があり、通常、構造全体よりもはるかに短い耐用年数の後に埋め立て地に捨てられます。 したがって、もし私たちが隠蔽をやめることができれば、それは私たち全員にとって根本的な価値を得ることになると思います。
AH:最後に、これからのことを教えてください。次は何をするのですか?
CT:大きなプロジェクトで真空断熱ガラスを使うことを夢見ています。私にとって真空断熱ガラスは、運用上の炭素だけでなく、環境負荷の低減や長寿命化にも貢献する可能性を秘めた技術なのです。
というのも、運用上の炭素排出だけでなく、炭素排出量を抑制し、耐用年数も長くなるといったメリットも期待できるからです。
CHRISTOPH TIMM氏について

Christoph Timm氏はドイツのKarlsruhe大学で建築の学位を取得し、RWTH Aachen大学で建築の学位を取得しました。彼はクリエイティブな分野で25年以上の経験があります。そのキャリアの中で、Christoph氏はさまざまなプロジェクト(製品、家具、街灯、建築空間など)をデザインしてきました。
SOM社では現在、Enclosure グループのシニア・リーダーを務め、ニューヨーク・オフィスのさまざまな建築設計・エンジニアリング・スタジオの中にその活動を組み込んでいます。Christoph氏の専門は、さまざまな光条件下での美的外観と性能の両面における建築物のエンクロージャーで活躍しています。
気候変動の危機が叫ばれるなか、Christoph氏は、製造に費やされるエネルギーと耐用年数中にもたらされるメリットの比較という観点から、すべての建築部材に着目しています。削減、リユース、リサイクルされた部材の研究も並行して行い、このような総合的な建築物へのアプローチが今日必要とされています。
SOM社内で、Christoph氏は建設現場視察プログラムを立ち上げ、定期的に若手建築家を市内のさまざまな建設現場に案内し、建設の複雑さや、その状況がデザインにどのような影響を与えるかについて理解を深めてもらいたいと考えています。
Christoph 氏は、同社のニューヨーク・プロジェクトのほとんどに参加し、また設計評論家としても活躍しています。SOM 社外でも、会議や業界のイベントで積極的に専門知識を共有しています。北米、南米、ヨーロッパ、中東、アジアで設計や建築性能関連の講演を行っています。
※本記事は、glassOnlineに特別な許諾を得て掲載しています
※情報出展元:Glass-Technology Internationalに掲載
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